1年ぼうず

眞野 義行

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神戸大学医学研究科感染症内科教授 岩田健太郎(昨年2月にダイヤモンド・プリンセス号に感染対策の調査員として乗船)

その医師が10日にTwitterに投稿したものです。非常に長いので、一部を紹介します。

『この文章は「成人式には行かないで」というお願いの文章です。

このいまいましいウイルスがいなければ、我々は毎年行っている楽しい行事を楽しくとりおこなうことができたのです。が、残念ながら今はその時期ではありません。すべてはこのウイルスのせいなのです。

一生一度の大事な成人式、たかだか風邪の親戚みたいなウイルスごときで、止めにするなんて嫌だよ。そんな意見もあることでしょう。

でも、一生一度の大事な成人式だからこそ、ここで一歩踏みとどまってもらいたいのです。

すでに、年末年始に帰省した若者から、家族親戚に感染した事例が兵庫県でも複数見つかっています。確かに若者にとってはこのウイルスはほとんど「ただの風邪」でして、ちょっとした症状がでなかったり、しばしばなんの症状も起こしません。

が、皆さんのご両親や、祖父母の方々は違います。

<中略>

想像してみてください。もし、みなさんのご両親やおじいさん、おばあさんが「あなたが」持ち込んだウイルスのために病気になってしまったら。それが理由で長くて苦しい重症治療を受け、場合によっては死んでしまったら。それがもし、成人式がきっかけになったものであったならば。

ぼくだったら、そんな体験をしたら悔やんでも悔やみきれないことでしょう。なにしろ「一生一度の成人式」なのです。何十年たっても、その成人式を苦い思いで振り返らねばならなくなるでしょう。

学校は通常通りやっているのに、なぜ成人式だけだめなんだ?うちは田舎だから大丈夫。成人式では万全の感染対策をとっている、と市長は言ってるぞ。こんな意見もあることでしょう。

はい。そういう意見はすべて正しいです。しかし、想像してみてください。

ぼくは島根県というとても小さな県の出身です。人口が1万に満たない町で育ちました。外に出ても人なんてパラパラとしかいない、普通の生活でそのまんまソーシャルディスタンスができている町です。

こういう町では新型コロナウイルス感染はほとんど流行しません。だから、生活も普通にできます。周りに人がいないので、多くの場合はマスクすら不要です。

でも、そういう町の若者たちの多くは、都会の大学に行ったり、都会で就職しています。広島とか、大阪とか、東京に行くのです。

そして、成人式のために連休に帰省します。

なるほど、成人式の感染対策は「バッチリ」かもしれません。でも、そのあとで「久しぶりにあったんだから、ちょっと飲みに行かないか」という話になるかもしれません。もう、お酒も飲めるんだし。居酒屋じゃなくたって、友達のうちに集まることだってできるでしょう。久しぶりの旧友にあえば気も休まります。それでなくても、この1年は気が休まらなかった1年だったのですから。大声で近況を知らせ合う、ということも十分にありそうなことです。昔からの友達に会えば、ハメを外したくなるのが人情です。

そうやって都会から持ち込まれたウイルスが田舎で広がります。なにしろ、若者にとっては新型コロナウイルスは「ただの風邪」。症状はないか、あってもたいしたものではないからです。元気に帰省した若者が、田舎の旧友に感染をうつすのです。静かに、あたかもなにも起きていないかのようなふりをして。

その持ち込まれたウイルスは、そうやって田舎に住む若者に、そしてその若者の家族に伝播していきます。

<中略>

今日は1月10日だ。予定はもう立てている。もう決まったことなんだから、今更キャンセルなんてできない。そういう声も聞こえてきそうです。

でも、今からでも十分に間に合います。危機的な状況下では、瞬時の判断変更、方針転換は大事だし、必要なのです。

<中略>

ぼくがネットで調べたところによると、日本の成人式は1949年にできた比較的新しい習慣で、1月にやる必然性もとくにないのだそうです。ですから、もっと感染症が下火になり、比較的安全な状態を待ってから成人式を行うことだってできるのです。「もう決めたこと」と決めつけずに、ちょっと延期したってバチは当たりません。一生一度の成人式、是非後悔のない、何十年たっても楽しく振り返ることができる式にしていただきたいと、心の底から願っています。

最後になりましたが、成人される皆さんに心からお祝いの言葉を申し上げます。そして、皆さんの前途にある社会が、世界が、未来が、いまよりずっとましなものでありますよう、お祈り申し上げます。